風に立つおばあちゃんと新井浩文

朝、立ち寄りを言い訳に遅刻することを連絡。いつもと違う駅まで歩いていると風が強いことに気付く。最初の角を曲がると朝日が射す一本道になるんだけれど、日を背に歩いていたら突き当たりの公園にあるポールで佇むおばあちゃんがいた。白髪でピンクが差し色の服を着た155cmくらいの老婦人。片手には杖。やたらと太陽を眩しそうに、目元にしわを寄せる。脇を通ろうとしたら、ボソボソとしゃべりかけられた。イヤホンを外し耳を澄ませると、手を貸して欲しいとのこと。風が強くて前に進めなかったようだ。遅刻だけれど特に急いではないので肩を貸す、というより手を握ってもう片方の杖代わりとして一緒に歩くことに。持っていたビニール袋を預かろうとすると決して手放さない。握る力も弱く、何かの助けになっているんだろうかと不安になったが、ゆっくりと歩き出すおばあちゃん。彼女の左手が僕の左手を握り、背中をさするような形で進む。誰かとこうして歩くのは初めてかもしれない。慣れない歩き方、非常にゆったりした時間の流れ。「風邪が強くてね。困ってた」と申し訳なさそうに話しながら一歩一歩。この一本道をどこまで行くんだろうと考えていると、30mくらいで「ここで大丈夫。ありがとう」と思いのほか早い終わりが訪れる。目の前にあるのは、周辺でひときわボロい日当たりの悪いアパート。ここに1人で住んでるんだろうかと勘ぐりつつ、僕は「本当に大丈夫?」と尋ねてからその場を立ち去った。たった30m。僕が通りかかる前、おばあちゃんはこの距離をどんな気持ちで眺めていたんだろうか。人にわかりやすく助けを求められたのも久しぶり、悪い気持ちもしないので、今日一日のいいスタートが切れた。その後、目当てのものは見つからずただ遅れて出社した。めったにない印象的な出来事。なんかも夜もあった気がするけどブログ書きながら寝落ちしたので忘れた。あっ、新井浩文の逮捕か。ショックだね。麻薬ならいいけど、直接的な被害者がいるともうどうにも擁護のしようがない。いろんな邦画(傑作も多いよな……)の配信やソフトはどう対処するのか。TSUTAYAでバイトしてたらとりあえず出演作を並べて、その幅の広さと量に唸る遊びがしたかった。業界的にもダメージ受ける人は相当いそう。画像は第19回東京フィルメックスで観た、ツァイ・ミンリャン「あなたの顔」。おばあちゃんが左の人にそっくりだった。

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